訪問看護師の守り方

1992年に訪問看護というしくみができてからおよそ30年が経ちました。病棟にあるナースステーションを街中にも作るというコンセプトは今考えてもとても斬新なものだったと感じます。

 

そして、その管理者は看護師であること、さらに株式会社としての法人化も可能としたことで、自由なコンセプトで看護を行える土壌が作られました。

これらの構造的なメリットを現在では、収益性のみを悪用しているステーションもみられるようになり社会問題となっています。

それでは、私たちみる看る訪問ステーションは、この構造的なメリットを本来あるべき姿で活かしつつ看護師を支えていきたいと考えています。

【看護師の体を守る腰痛対策】

看護師の職業病でもある腰痛対策を行っています。昔からボディメカニクスを習得して重さに対する対策を勧められてきました。

そうは言っても50kg以上の患者さんを女性看護師が一人で訪問した際に上手く支えることは大きな負担です。

そこで私たちのステーションでは、スライディングシートを職員全員に配布しています。

体の下にこのシートを敷いてしまえば、寝たままの患者さんを簡単に上下左右に移動させることが可能になります。これを使用することで看護師だけでなく、患者さん自身も心理的にも身体的にも負担が少ないという感想を得られています。(画像はこちらのサイトから引用)

 

【看護師の体を守る暑さ対策】

看護師の体を守る2つ目は暑さ対策です。都内の他の訪問看護ステーションと同様に私たちも電動自転車で移動しています。

昨年から希望者に試験的に空調服を導入しましたが、今年度から「職場の熱中症対策」が義務化されたことに伴って、全職員に空調服・専用アイスパックを導入しました。

私自身が訪問看護を行っている中で、数年前から暑さによる限界を感じたことが大きかったのですが、こうした取り組みによって職員が少しでも快適に勤務できる環境を作る必要があります。

【人材投資としての退職金制度】

看護の質評価を行う調査で、『ベテラン看護師が勤務している病棟は医療事故が少ない』という結果が出ていました。私たちもこれに倣うべく、若い職員がベテラン看護師として育っていけるような職場づくりをコンセプトに取り入れたいと思っていました。

そこで退職金制度を導入することにしました。創業して2年が過ぎた段階で退職金制度を設けることは、ゆとりのない組織としては時期尚早かもしれません。

経営者の目線では、これは人事労務に対する経費として考えるのではなく、大切な人材に対する投資と考えています。

【ハラスメント対策】

カスタマーハラスメント対策が求められています。この問題の全てがカスタマー側にあるとは考えていません。訪問看護は契約書によって取引が成立した状態で行われています。

当然ですが暴力、暴言、セクハラを受けることは取引内容には含まれていません。そのため、そういった事実が発生した時点で、事実確認の上で経営者の判断で契約破棄とすることが可能です。経営者側がそのような対応をとることで完結することであり、そこで生じる損失は金銭的な損失でしかありません。

まともな経営者であればすぐわかることですが、金銭的な損失よりも人的な損失の方がはるかに大きいと思います。

【まとめ】

私自身が勤務してきた経験の中で看護師に対する投資を感じる場面は多くありませんでした。流動性の高い業界であるため、絶えず何らかの理由で看護師が退職し、若手の看護師が採用されることを繰り返す状況がありました。人口の多い団塊ジュニアの世代まではそれで良かったのですが、少子化に抗えない看護業界はこのままの状況では良くありません。

質の高い看護を目指すのであれば、質の高い看護師が必要です。そして質の高い看護師が集まるには、質の高い看護師のための経営的な構造をつくる必要があると考えています。(賢見卓也)